『モーリタニアン 黒塗りの記録』ある程度人の目がないと、善悪の境界線を人は簡単に超えてしまうものなのか。

こんばんは、ジャスミンKYOKOです。

アメリカ同時多発テロの容疑者がたくさん収容された場所「グアンタナモ収容所」が描かれた映画ならば行かないわけにはいかない!

ニュースなどでも、その拷問のひどさと、何の証拠で放り込まれたかもわからない中東の人たちがたくさんいたと悪名高かったからね。(あの時のニュースが、この映画の中の訴訟で明るみになった事実なのかも)

アメリカを愛すなら、アメリカの闇も知っておく笑。

「グアンタナモ収容所」は、なぜ本国ではなくキューバに作ったのか。

証拠もないのに拘束しつづけ、裁判も受けていない者に拷問をする。

日本人みたいに「人の目」を気にしすぎる必要はないが、こういう閉鎖された空間はある程度「人の目」がないと、善悪の境界線がわからなくなってしまうものかもしれないね。

戦地や、刑務所の刑務官、この「グアンタナモ収容所」もね。

映画の終盤、ジョディ・フォスター演じるナンシーが言う。

「だから、キューバに作ったのね」

「人の目」がなく「閉鎖された空間」に、圧倒的に弱い立場の人と、政府に守られた者の自分に与えられた権限。

その権限を人としてどこまで守れるのかは、至難の技なのか、それとも最初は守っていたが、他者に染まっていったのか。もう麻痺してわからなくなるのか・・・。

たんたんとした弁護士たちの作業の間に、激しい拷問シーンがあり、物語の起伏はそこまでないけど、明るいアメリカの負の部分をまた知れたことは勉強になり、面白かった。

ストーリー

アメリカ同時多発テロに関与した疑いで、アフリカのモーリタニアに暮らしていたモハメドゥは拘束され、多発テロの2か月後には、キューバの米軍のグアンタナモ基地にある収容所に連れてこられた。

裁判も受けられないまま、もう4年の月日を収容所で過ごしていた。

アメリカはテロの首謀者を早く国民の前に出したいがために、彼への尋問や拷問は、月日が経つにつれて厳しくなっていった。

そんな折、人権派弁護士として活躍するナンシー・ホランダー(ジョディ・フォスター)は、この案件を知り、周囲の反対も聞かずに彼の弁護をかって出ることにした。

彼と関わる度に、グアンタナモ収容所と政府の不当なやり方が明らかになっていく。

久しぶりに映画で観るジョディ・フォスターが素晴らしい

政府と軍を相手取って訴訟を起こす弁護士ナンシー・ホランダーを演じるジョディ・フォスター。

彼女はやっぱり切れ者が似合う。

こういう頭が良くて弁が立つ役は、彼女のあふれる知性を出し惜しみしなくていいからいいよね(ハーバード卒)。

最近、映画で見なくなっていたけど、久しぶりに出たら出たでゴールデン・グローブ賞(アカデミー賞の前哨戦のようなもの)の助演女優賞をパパッと獲っちゃうんだからすごいよね(アカデミーは2回主演女優賞受賞済)。

今回はナンシー本人に似せるため、シルバーヘアに真っ赤な口紅が、またかっこよかった♪

知的女子、羨ましい!笑。

カンバーバッチがアメリカ人に見えない笑

これほどアメリカ人に見えない人も珍しい笑(彼はイギリス人)。

この映画の脚本を読んで、出たいと切望して出演が叶ったらしいベネディクト・カンバーバッチ。

ジョディ・フォスター扮する人権弁護士ナンシー・ホランダーに対抗する、アメリカ軍専門の弁護士なのよ。

弁護士と言っても、普通の民間から雇うのではなく、弁護士資格のある人を「軍人」として軍が雇うのか、軍の法律家の学校があってそこを卒業した人なんだろうと思う。

第三者ではないから、良くも悪くも軍に抱き込まれやすいのよね。

軍人同士の弁護ならともかく、民間人が絡むと「軍の立場」を守ろうとするから。

トム・クルーズが『ア・フュー・グッドメン』で演じた軍の弁護士は、やっぱりトムだけあって明るかったし、アメリカ人の見本だった笑。

カンバーバッチは、イギリス人の役しかあまり観なかったからか、なんだかアメリカの軍服もちょっと似合わないし、アメリカ人の踏み絵?「バーでビリヤードしながらビールを飲む」姿もなんか、違う(厳しすぎる笑)笑。

⇧カンバーバッチの不似合いな軍服と、ビリヤード笑。

アメリカ人の洗礼、バーベキューパーティでも、チェックのシャツやTシャツじゃなく、ポロシャツ着てた笑。(確かにその2つも似合わなそうだもんなあ)

リーアム・ニーソンやジェラルド・バトラーなどのイギリス北部出身組は、アメリカ人になりきってがんばっているが笑、カンバーバッチは挑戦したのが遅かったのか、しっくりこない笑。

証拠もなく不当に拉致された中東の人々

⇧悪名高き、グアンタナモ収容所で面会するモハメドゥとナンシー。

グアンタナモ収容所を描いた映画は数少ないが、軍の弁護士役のトム・クルーズが、収容所で不審死を遂げた新兵の調査をし、収容所にはびこる悪しき習慣と所長(ジャック・ニコルソン)を裁判で訴求した映画『アー・フュー・グッドメン』は、すごく面白かった。

同時多発テロ以降、中東やアフガニスタン出身というだけで不当に拘束され、この収容所に連れて来られた人が800人ほどもおり、裁判を受けられないまま、命を落としていった人も多数いたらしい(今でもそのまま拘束されている人はいるかもしれないよね)。

モハメドゥの義理の兄が、アルカイダ(イスラム原理主義のテロ組織)のオサマ・ヴィン・ラディン(同時多発テロの首謀者)の携帯を借りてモハメドゥに連絡したのをアメリカ軍が突き止め、アルカイダのリクルーター(組織にリクルートする人物)という容疑をかけられていたのだ。

モハメドゥを演じたタヒールがそっくり。モハメドゥ本人の明るさが胸をつく

⇧最後まで希望を捨てないモハメドゥを演じるタヒール・ラヒム。

国を相手取った裁判は、恐ろしいほど長くかかる。

証言をすればするほど、拷問は厳しくなる。

それでも無実を訴え続け、国に帰ることを夢見ているモハメドゥの諦めない姿にすごく驚くが、エンドロールで実際の本人を観てさらに驚く。

あれだけのことをされ、大事な人生の時間を奪われたというのにすごく明るいのだ。

収容所で死んだ方がましだと考える者が多い中、彼だけは希望を捨てなかった。

やはりそういう精神の持ち方が生死を左右するのかもしれない。

「もうダメだ」と思ってる人より「絶対国に帰る!」と思っている人の方が生存率は高くなるんだろうね。

⇧日光浴の時間。景色さえ見れず、空を見つめるモハメドゥ(タヒール・ラヒム)。

何時間も連続で部屋に爆音を流したり、暑いキューバで夜にキンキンに冷房を入れて眠らせず、睡眠不足のまま変な体勢で何十時間も立たせ続けたりと、拷問のやり方に衝撃を受ける。

映画『ある人質 398日間の奇跡』でシリアで人質に捕られた欧米人への拷問も観たが、拉致側の彼らは裕福ではなく、生活のために身代金を取るので、人質にここまではしない。

ぬくぬくと豊かな暮らしをしていて政府から守られている者がする拷問は、ゲームと化し、アメリカ本国から遠く離れたキューバだからこそ、タガが外れ自分が恐ろしいことをやってることに自覚がない。

自分の生活に何一つ影響がない者がやる拷問は「快楽」になりやすいのかもね。

「グアンタナモ収容所」での出来事を書いて、ナンシーに送るように言われたモハメドゥは、たくさんの紙に書き続けるが、大事な訴訟の内容なのに、アメリカ政府の検閲が入り、ナンシーに届いた時には、ほとんど黒く塗りつぶされていた。

彼は解放された後、手記を出版したが、この検閲の黒く塗りつぶされた部分もそのまま本にしたのだ。アメリカ政府の隠蔽を世界に晒し、ベストセラーになった。

人権弁護士ナンシーの仕事への姿勢がかっこいい

新人弁護士で助手のテリは、拷問の事実を知ると、感情に流されて「モハメドゥは無実なのに」とブレまくり。

それに対し、ナンシーは「事実のみ」を見つめ、モハメドゥが本当は無罪かもしれないが、有罪でもない証拠もないので、「不当拘束」の部分にのみフォーカスして調べ上げていく。

人によってはそれが冷たく見えるが、たぶん彼女も若い時にテリみたいにイヤというほど、感情を揺さぶられて対処してしまい、後悔したこともあったかもしれない。

面会時の雰囲気だけで依頼人を信じることはせず、たんたんと事実のみを観ていくのは、「無実ではあってほしい」が、そうじゃなかった時に後悔しないよう彼女なりの予防線なのかもしれないよね。

依頼人に八つ当たりされても、たんたんと立ち向かい、大部分が黒く塗りつぶされた膨大な書類になんとかほころびを見つけようとするナンシーが素晴らしかった。

ジャスミンKYOKOの煩悩だらけの映画トーク

⇧グアンタナモ収容所のバーで偶然会ってビールを一緒に飲むナンシーとスチュアート。

アメリカ政府は友達をテロでなくしたカンバーバッチの感情を利用して、この訴訟の軍側の弁護士に任命する。

最初は友の仇を取るつもりだった彼も「グアンタナモ収容所」の拷問の実態を知るにつれ、この男を犯人に仕立て上げようとする裏の意図に気づき、自分の中の正義や友達の奥さんの手前、葛藤する。

こういう気持ちが揺らぐシーンがカンバーバッチ、目だけで表現してうまいんだよね。

アメリカ人には見えないが(しつこい笑)、彼を起用したのもわかるな。

同時多発テロで傷ついた国民の心を取り戻そうと、誰でもいいから犯人に仕立て上げようと躍起になる政府の思惑も垣間見れて、自由の国のアメリカも自分の支持率しか考えないTOPに振り回されているのだなとしみじみ感じる。

一番ゾッとしたのは、やっとの思いで釈放されたにも関わらず、モハメドゥを受け入れてくれる国がなく、ふるさとモーリタニアさえにも行けずに、今でも彼は難民のような扱いのままというテロップが最後流れた時。

アメリカに睨まれたら世界で生きていけなくなるのか・・・・。

ホラーなんかよりずっと怖い現実世界の実態だった。

映画『モーリタニアン』のキャスト

@『モーリタニアン 黒塗りの記録』(2021年 米)

ナンシー・ホランダー・・・・・ジョディ・フォスター

モハメドゥ・サラヒ・・・・・・タハール・ラヒム

テリ・ダンカン・・・・・・・・シェイリーン・ウッドリー

スチュアート・カウチ中佐・・・ベネディクト・カンバーバッチ

ニール・バックランド・・・・・ザッカリー・リーヴァイ

1位・・・・・『ラスト・フル・メジャー』  

2位・・・・・『KCIA 南山の部長たち』

3位・・・・・『最後の決闘裁判』

4位・・・・・『スイング・ステート』

5位・・・・・『ヤクザと家族 The Family』

6位・・・・・『プロミシング・ヤング・ウーマン』

7位・・・・・『グリーンランド 地球最後の2日間』

8位・・・・・『ある人質 生還までの398日間』

9位・・・・・『クーリエ 最高機密の運び屋』

10位・・・・・『ビバリウム』

11位・・・・・『RUN』

12位・・・・・『インヘリタンス』

13位・・・・・『ワイルド・スピード JETBREAK』

14位・・・・・『アオラレ』

15位・・・・・『キル・チーム』

16位・・・・・『ミアとホワイトライオン 奇跡の1300日』

17位・・・・・『秘密への招待状』

18位・・・・・『死霊館 悪魔のせいなら、無罪。』

19位・・・・・『モンタナの目撃者』

20位・・・・・『OLD』

21位・・・・・『アウシュビッツ・レポート』

22位・・・・・『モーリタニアン 黒塗りの記録』

23位・・・・・『孤狼の血 LEBEL2』

24位・・・・・『クワイエット・プレイス 破られた沈黙』

25位・・・・・『アウトポスト』

26位・・・・・『聖なる犯罪者』

27位・・・・・『ジェントルメン』

28位・・・・・『ファイナル・プラン』

29位・・・・・『ドント・ブリーズ2』

30位・・・・・『ゴジラVSコング』

31位・・・・・『ノマドランド』

32位・・・・・『キング・オブ・シーヴズ』

33位・・・・・『AVA/エヴァ』

34位・・・・・『テスラ エジソンが恐れた天才』

35位・・・・・『Mr.ノーバディ』

36位・・・・・『白頭山大噴火』

37位・・・・・『キャンディマン』

38位・・・・・『カポネ』